そんな俺を、突き落とすのは、簡単だ。

それが杏奈の手なら、尚更たやすい。


「そりゃあ、かっこいいとは思うけど……」


頭の中で、鐘を打ち鳴らされたようだった。

杏奈の言葉が鈍く反響し、他の全ての音をかき消していく。

なんだ、結局、杏奈もただの女か。

俺の中の杏奈のイメージが、パリンと音を立てて砕け散った気がした。

足元が崩れ、暗い穴の中に落下していくような感覚に襲われる。

この穴の底には、光も希望も存在しない。

俺は杏奈に、失望してしまったのか。

他の女とは違うって思っていた俺の目は、節穴だ。

俺は杏奈を、買いかぶり過ぎていたんだ。

つまり、俺の想いも、幻だった。

そうに、違いない。