「あ、なんだ。伊田杏奈か」
俺は慌てて、今気付いたばかりだと装うけれど、彼女には見破られてしまったらしい。
腰に手を当てて、俺をにらみつけてくる。
「聞こえてたんでしょ」
俺はそれには答えずに、こっそりと深呼吸をする。
そして、
「ところで、杏奈は何か用だったわけ?」
彼女に便乗だ。
初めて、下の名前だけで呼んでみる。
不自然にならないように、慎重に、けれど何気なく。
彼女が気付かなければ、成功だ。
「別に。昨日のドラマ見たかなって、聞こうと思っただけ」
成功。
俺達は、下の名前で呼び合う仲になったんだ。
すげぇ!



