「杏奈、おっはよ!」


雄平と教室の前で別れたのを見計らったように、肩をポンっと叩かれた。

底抜けに明るいこの声は、美菜だ。

おはよう美菜、と言いながら振り返るけれど、その言葉が最後まで声になることはなかった。

ニヤニヤとしたいたずらな笑みを見て、あたしは全てを悟る。


「男の子と歩いてたでしょー。彼氏?」

「あー……あはは」


美菜の後ろにいた鈴音に視線で助けを求めるけれど、鈴音も、からかう準備は万全と言わんばかりに、にっこりと微笑んでいる。

二人には、彼氏がいるということは伝えてある。

ただ、どこの誰だという質問は、そのうちきちんと紹介すると言ってかわしていた。

だって、もし美菜に雄平の名前を教えたら、絶対に教室まで顔を見に行くと言いかねない。

それはさすがにちょっと、恥ずかしい。