「へえ、水泳やってたなんて知らなかった。ええと……小野君、も?」
彼女は俺の胸元の名札を一瞥した後、確かめるように俺を見た。
上目遣いに、俺の心臓が一つ大きくジャンプする。
意識していないだろうから、尚更タチが悪い。
まったく、罪な女だ。
「俺、小野雄平」
できるだけさっぱりした感じで笑って見せる。
彼女が口の中で俺の名前を繰り返す。
たったそれだけのことで、俺は天にも昇る思いだった。
彼女の視界に入り、目を合わせ、向き合って言葉を交わしている。
彼女が紡ぐ小野雄平という響きが、何か神秘的なものに思えて、感動してしまった。
「あたしは、」
彼女が言いかけるのを遮って、
「伊田杏奈、でしょ。さっき呼んだじゃん」



