伊田杏奈。
クラスの誰より先に覚えたフルネーム。
俺は彼女に近付く方法を探した。
幸いなことに出席番号が近く、入学してしばらくは座席が出席番号順のため、すぐ近くの席に彼女がいる。
席替えが行われるまでが勝負だ。
「伊田ー。伊田杏奈」
休み時間、自分の席に留まっている彼女の背中に向かって、何気ない風を装って呼びかけてみる。
内心では心臓バクバクだ。
俺の席は彼女の隣の後ろの後ろ。
彼女はきょろきょろした後で、やっとこちらを振り返った。
俺と目が合って、首を傾げる。
ドキンと胸が大きく跳ねた。
初めて真正面から顔を見た。
チラチラと盗み見ていた時よりずっと、彼女が美人だということがよくわかる。
目の奥に少しの警戒心と緊張が浮かび、顔は強張っていた。
笑った顔が見たいなと、純粋に思った。



