「東郷先輩を好きになりたかった……」 その言葉がどれほど残酷か、あたしは知らないふりをして口にする。 先輩の惜しみない包容力を、あたしは求める。 「これから、好きになる?」 その微笑みに、思考回路が麻痺する。 『“初めて”じゃなくなりたかったら、俺んとこおいで』 「伊田ちゃん、おいで」 先輩の手が、差し伸べられる。 この手がいつも、あたしを救ってくれた。 きっと、今も。 その手に導かれるように、並んだ机の間を縫って、あたしは足を進めた。