“大事にする”
それはつまり、あの時のことだ。
雄平があたしを求めないのは、あたしが“初めて”だから遠慮しているんだという、東郷先輩の解釈。
あたしは雄平の顔を見るのが怖くて、足元に視線を落とした。
ああ、そうだった、上履きのままだった。
土ですっかり汚れてしまった。
今日は持ち帰ろう、そんなことを考えるのは、気を紛らわせたいからだ。
「杏奈、大丈夫……?」
雄平が歩み寄ってくる気配がした。
顔を上げる間もなく、雄平に抱きしめられる。
久しぶりの雄平のぬくもりを感じ、目の奥が熱くなった。
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