まだ、慣れない。
雄平に触れられると、心臓があちこち暴れ回る。
雄平は、ずるい。
きっと雄平にとっては、こんなスキンシップ、なんでもないことなのだろうから。
目的地の駅名がアナウンスされて、席を立つ。
たぶん赤くなっている顔を隠すにはちょうど良い。
「まだ座ってたら?揺れるから危ないよ」
そう言いながらも、雄平も立ち上がる。
と次の瞬間、雄平の忠告は現実のものとなり、電車がギシギシと鳴きながら車体を揺らす。
「わっ」
とっさに吊革に伸ばした手が、あろうことか空を切る。
立て直すことに失敗した体は、無常にも重力に逆らえず、
「……っと、危ねぇ」
まっすぐ雄平の胸の中へ。
頬を思いっきり雄平の胸に押しつけて、なんとか転ぶことを回避できたらしい。
けれどそれは、新たなピンチの始まりだった。
「杏奈……朝から大胆」
ふいに、耳元で甘い声。
支えてくれていたはずの両手が、あたしをすっぽりと包んでいた。



