「伊田さん、顔貸してくれる?」
現実にこんな呼び出し方があるんだなと感心してしまい、あたしはすぐに反応できなかった。
あたしは今、廊下で三年生の女子に行く手を阻まれている。
東郷先輩の取り巻きだ。
長い休み時間でもないからと油断して、一人でトイレに向かったのがいけなかった。
「無視してんじゃねーよ」
何も言わずにいるあたしに焦れたように、一人がドスのきいた声をぶつけてくる。
「何の用ですか」
怯んではいけない。
あたしは努めて冷静に、先輩達を見やった。
どうやらそれが気に食わなかったらしい。
「てめぇ、生意気なんだよ!」
肩を押されて、二、三歩後ろによろめく。