放課後、約束しない限りは、雄平とは下校しない。

友達も大切にしようというお互いの意向だ。

だからあたしはいつも、鈴音や美菜や、他のクラスメイトと遊びに行ったりすることが多い。

けれど今日は、誰の誘いをも断り、一人でいる。

鞄も持って、帰る準備はできているけれど、なんとなく帰る気になれなくて、辿り着いたのは、自動販売機の前の階段だった。

雄平と話した場所だ。

あの日と違って、今日は自分で缶コーヒーを買う。

ミルク入りではなく、ブラックだ。

やっぱり、苦くて飲めない。

でも、無理に喉に流し込んだ。

苦みが、胸の痛みを中和してくれることを期待していたのかもしれない。


「伊田ちゃん、何してるの?」


頭上から降って来た声に、驚いて顔を上げる。

踊り場から折り返して上に向かう階段の手すりの上に、東郷先輩の綺麗な顔が覗いていた。