「覚悟はいい?伊田ちゃん」


東郷先輩はあたしの髪をすくい、耳にかけた。

頬に触れた指先が思いのほか温かくて、あたしを正気に戻そうとする。

……違う、あたしは正気だ。そう自分に言い聞かせる。

そして顔を上げ、東郷先輩を見つめた。


「……こんな時くらい、“伊田ちゃん”はやめてください」


そう言うと、先輩は小さく微笑む。

東郷先輩の控えめな笑顔は、本当に綺麗だ。