「あそこから、撮らない?」
葉が指差すのは、先生のいるベランダと、中庭を挟んだ向かいのベランダ。
…確かにあそこからなら、正面顔が撮れるだろうけど。
「いやいや、見つかっちゃうでしょ……!」
「だーいじょうぶだって。見つからない見つからない」
やだよ怖い!
葉に半ば引きずられるように、私は向かいの校舎へ走った。
ふたりで二階のベランダへ出て、こそこそと先生の正面になる位置まで歩く。
…あ、先生、今煙草吸ってない!
なんか、ぼーっと空を見上げてるんですけど。
「……なんか、物思いにふけってんな…」
「…失恋でもしたのかもね」
「ぶっ」
私の言葉に、葉が吹き出す。
…だって小川先生、まだ独身なんだもの………
ほろりと悲しい事実に心を痛めていると、ちょうど先生の正面になる場所へついた。
で、だ。
「…ここから、どう撮るの?」
正面から撮ろうとすれば、どうぞ没収して下さいと言っているようなものだ。
葉は「うーん」と考えるような仕草をした後、何かを思いついたような顔をした。



