彼は他人に自分のことを、絶対に苗字で呼ばせない。
そして、出来るだけ他の人のことも、名前で呼ぼうとする。
いきなり呼ぶと相手が不快に感じちゃうかもしれないから、一応許可を取る…らしい。
葉は「ありがと」と目を細めると、今度こそ「じゃあ」と言った。
「…理紗、また明日!」
…とっても明るくて、私がずっと憧れて来たその笑顔で。
私に手を振って、彼はアオバと走って帰って行った。
「……………」
…これは、夢?
葉が、私を『理紗』って。
『また明日』って。
私は彼の姿が見えなくなるまで、ぼうっと立っていた。
そして、そのまま後ろへ倒れこむ。
…芝生が、ふさふさ。
静かに、目を閉じた。
…卒業なんて、出来ないよ。さゆり。
私、やっぱり葉が好きだ。
…今度は、遠くから見つめているだけなんて、嫌。
それだけじゃ寂しいって、私は感じてしまった。知ってしまった。



