どうしようかと慌てていると、河原の上にある道から、誰かが走ってくるのが見えた。
「アオバ!」
その声に、柴犬がそっちへ振り返る。
嬉しそうに、しっぽを振って。
…飼い主さんかな?
そう思って目を凝らしていると、その人が被っているキャップによって見えなかった顔が、徐々に見えてきた。
…あのひとは……
…えっ!?
「…ちょっ、アオ、いきなり走んなよ、もう……」
その人は私達の近くまで来ると、ハァハァと息を切らした。
…間違い、ない。
この声と、顔は。
「………葉……?」
恐る恐る、訊いてみる。
彼はぱっと上を向くと、私を見て「あっ」と声を上げた。
「長野さん」
…長野、理紗。私の名前。
覚えててくれたんだという嬉しさと、この状況への戸惑いで混乱してくる。



