僕は、彼女が好きだ。

彼女は、僕の隣の席だ。ベタだけど。

僕は自分の板書が終わったあとは、彼女のノートをばれないようにさりげなく眺めている。
彼女の描くなめらかな曲線や、几帳面そうな綺麗な字、そしてノートの隅っこに小さくブルーのペンで書いてあるポイント、すべてが愛おしく思える。


彼女は、クラスで、学校で、特別だ。
クラスの大多数の女子は、冬はセーターを指のところまで伸ばして、ミニスカートから生足を出して、寒い寒いと言っている。
彼女は、紺のダッフルコートに白い毛糸のマフラーを巻き、おまけにマフラーとお揃いの手袋をつけて、黒いニーハイソックスをはいて、学校まで来ている。
そこまでして寒いと言うのなら、許される。
それがたとえ彼女じゃなくても。
日本の冬は寒いから。


彼女は、正直者だ。
授業中、一斉に起立して黙読をするとき、絶対にちょろまかすやつがいる。そして、それに乗っかり、乗っかられ、常識的に考えれば、明らかに読み終わらないような時間に、クラスのほぼ全員が座ってしまうことがある。
そんなときでも、彼女は違う。
その目で文字を追い、終わったあとに椅子に座る。
僕にはできなかった。臆病者だから。目立つのが怖くて、注目されるのが怖くて、一人になるのが怖いから。
彼女は、僕のお手本でもあり、目標にするべき人間だ。


彼女の目は、綺麗だ。
自分が好きになった人の目だから、こんなにも綺麗に感じられるのか、それとも、彼女の目が、もともと、特別に綺麗なのか。
どちらでもいいと、僕は思う。
吸い込まれそうな瞳、なんてよく言ったりするけど、それは彼女のためにあるような言葉だという気がする。それほど彼女の目は綺麗だ。少し茶色のかった瞳。ずっと眺めていたいような気がするけど、見つめてはいけないような気もする。