玄関で靴を履いて、ドアを開ける。
冷たい空気がさっと部屋に抜けていった。
あたしの後ろを付いて来ていた彼は「寒ーい」と迷惑そうな顔をして言った。
考えてみると彼は、最初から最後まで優しくて冷たかった。
『それじゃあ』
「ああ、うん、じゃあ。」
壁に凭れながら手をひらりと振った彼。
『愛していたよ』
「うん。」
さも当然かのように頷いた彼。
「俺も愛しているよ」
『うん。』
さも当然かのように頷いたあたし。
「いってらっしゃい」
『うん、行ってきます』
このやりとりに満足したあたしはドアの外へ飛び出した。
雨はまだまだ降っている。

