もう一度抱いて

「それはいいんだけど…」


少しトーンの変わったキョウセイの声に、ピリッと周囲の空気が変わる。


どうしてもこみ上げて来る不安が、キョウセイの長いため息でさらに大きく増してしまう。


「タクシーに乗ってる間、目を覚ました京香が、俺の顔を見て泣くんだ。

戻って来てくれて、ありがとう。
もうどこにも行かないでくれって…」


ドクッと、心臓が異常なほど暴れ出す。


震える指先を、そっと隠すように握りしめた。


「どうして…なんだ?

俺、何もしてやれないのに。

好きなのは永瀬だし、一緒に居る意味なんか全くないのに…」


キョウセイが両肘を膝について、頭を抱える。


その姿に、涙が出そうになる。


「それなのに俺がいなくなっただけで、アイツは死を選ぶのか…?」


思わず目をぎゅっと閉じた。


心がちぎれて、散り散りバラバラに飛んでいきそうになる。