もう一度抱いて

「永瀬…」


中低音の優しい声で呼ばれて、キュンと胸が大袈裟に音を立てる。


抱きしめる腕にぐっと力を入れられて、少し息が苦しくなってしまう。


「頼むから、俺のこと忘れようとしないで。

ずっと、ずっと俺のそばにいて欲しい…」


そん…なの。


そんなこと。


口に出して言わないで欲しい。


ただでさえこんなに好きなのに。


これ以上好きになったら、絶対に後に戻れないのに。


今だから、身を引けるんだ。


こんなに愛された、今だから…。


「わかってるから…。

もうどうしようもないこと。

だからもうこれで…」


最後に、と言おうとした途端、両肩をガシッと掴まれた。


「別れるからっ!」


「…え…?」


キョウセイ…。


今、なんて…?




「俺…。








京香と別れる…」