もう一度抱いて

「私、もう思い残すことはないよ。

今日の思い出だけで、生きていけると思う…」


キョウセイが京香と別れられない理由はよくわかるし、もうこれ以上私が望むことは何もない。


「な…んだよ、それ。

もしかして…、今日で最後にしようとしてるのか?」


キョウセイが少し身体を離して、私の顔を覗き込む。


私がコクリ頷くと、キョウセイは顔を歪め、私を抱きしめる腕が震え始めた。


「イヤだ…。

永瀬と離れるなんて、そんなのイヤだ…」


キョウセイの目に少し光るものが見えるのは、気のせいじゃないようだ。


「でも…、どうしようも出来ないでしょう?

隠れて付き合うことなんて出来ない。

そんなことしたら、それこそ京香はどんな行動起こすかわからないよ?」


京香はそういう危なっかしさのある子だ。


私にあんな強気な態度を取ったのも、今はキョウセイがいるからこそであって、それさえも失ったらあの子は…。