その週の金曜日の19時。


私は京香に指定されたファミレスに来ていた。


金曜日のせいかお客さんが多くて、店内はほぼ満席状態だった。


「お待たせ」


なつかしい声に振り返ると、胸の前まであるウェーブの黒髪を揺らした京香が立っていた。


「里桜。久しぶりだね」


ふわりと薔薇のような甘い匂いを漂わせながら、私の向かいに座る彼女。


ベージュのシフォンのブラウスが、とても良く似合っている。


「京香。なんだかすっかりOLさんだね」


「んー、やっと仕事に慣れて来たところよ」


整った顔でにっこり笑う京香。


私も口角を上げて笑った。


「何頼む?」


テーブルの端に置かれたメニューを取り出し、京香に手渡した。


「あ、注文はもうちょっと後でいい?」


「どうしたの…?」


不思議に思い、問いかけると。


「実はもう一人、呼んであるの」


「えっ?誰か来るの?」


「うん」


「えっ、誰?」


「来るまでのお楽しみよ」


妖艶にウィンクする京香。


えー。誰か来るなんて、聞いてないけどー。


前もって言ってくれたら、それなりに心の準備をして来たのに。


相変わらずだな…なんて、ちょっと呆れていると。


急に京香がニッコリ笑って、右手を上げた。


「こっちよー」


げっ。


来たんだ。


一体誰が来るのよ。


同じ会社の同僚とか?


もうっ。初対面の人ってただでさえ気を遣うのにー。


そんなことを思っていたら。


「こんばんは」


中低音の優しい声が頭上に響いた。