もう一度抱いて

亜美に言われて、私はむくっと身体を起こした。


「何もないよ。
雨が降ったから…、一緒に雨宿りしただけ…」


そう。


雷に震える私を、抱きしめてくれただけ。


転んだらいけないからって、手を繋いでくれただけ。


ただ。


それだけ…。


「何もないって言ってるのに。

どうして里桜、泣いてるの…?」


「え…?」


亜美に言われて頬を触ると、勝手に涙が流れていた。


「ねぇ」


少し低い亜美の声色に、ピリッと周囲の空気が変わる。


「もしかして、里桜。
磯村君のこと…?」


ドクンと心臓が激しく波打った。


亜美に聞こえたんじゃないかと思うくらいに。


「そう…なのね…?」


どうしよう。


亜美に気づかれちゃった…。


ぎゅっと一度目を閉じると、下唇を噛みしめながら私はゆっくりと頷いた。


「そんな…里桜。

よりによってまた…」


亜美の言葉に、また目の前が涙で滲み始めた。


そうだよね。


よりによって。


どうして、京香の彼氏なんだろう…。