少し掠れた優しい声に振り返ると、私と同じようにパーカーを着たキョウセイが立っていた。


「どうしたの?」


「永瀬こそ」


「私は眠れなくて…。キョウセイは?」


「俺も眠れなくて…」


そう言ってキョウセイが、木の下にあるベンチに腰掛ける。


こんな夜中にキョウセイと二人きりなんて、ちょっとドキドキしてしまう。


どうしよう。


何を話したらいいのかな…。


キョウセイは手をポケットに入れて、長い脚を組んでいる。


「ねぇ」


「ん?」


「キョウセイっていつからギターを始めたの?」


沈黙が苦手な私は、必死に話を考えた。


「俺?
俺は中学の時」


「へぇ。きっかけは…?」


「音楽好きな姉貴の影響でさ、小さい頃から洋楽とかガンガンに聴いてたんだ。

そのうち自分でもやってみたいって思うようになって、中1の時小遣いはたいてギターを買ったんだ。

それが始まり」


そうなんだ…。


お姉さんの影響だったんだね。


「ギター始めたこと、お姉さんはなんて?」


「うん。応援してくれてた。しっかり練習して、ライブに出れるように頑張れって言ってた」


「そう。じゃあすごく喜んでるでしょう?

キョウセイ沢山オリジナル曲も作れるし、ライブにでも出てるし。

お姉さん、ライブを見に東京に来たりするの?」


私がそう言うと、なぜかキョウセイは黙り込んでしまった。


どうしたんだろう…。


何か、まずいことを言ってしまったのかな…。


「姉貴は一度も俺のライブは見ていない…」


キョウセイは消えそうな声で言った。


「どうして?東京が遠いから…?」


恐る恐る尋ねてみると、キョウセイは首を横に振った。


「俺の姉貴…。

俺が中3の時に、死んだんだ…」