家に帰る途中に近くの公園に立ち寄った。

水で冷やしたハンカチを渡され、左頬にあてながら翔が口を開く。

「なんで叩かれたんだよ」

先ほどよりも穏やかな声で話しかけるけれど顔は眉間に皺を寄せたまんま

ほんとに心配性だね、翔は…

クスッ、と笑みを零す。

「私がね声を出さないことにイラついたんだって。」

「は?」

「前々からあの子達嫌がらせしてきてたんだけど、そのたびに私が何も言わないからいらいらするんだって。」


「…何だそれ。」

「知らない。」

声を出さないだけで逆恨みされ、挙句には暴力を振るう考え方が私にはわからない。

そもそも私は声を出さないわけじゃない。

現にいま、翔とこうして話している。

声は出せる。

ただ私は兄妹以外の他人に声を出さないだけ。

それだけの理由。

私は他人に心を開かない。

開きたくもない。

兄妹がいればそれでいい。

そう考えているから。

このことを十分理解している翔もそれ以上は何も言わなかった。

「…とにかく。またあんなことがあったら俺に言え。」

「うん。わかった。」

「おう。じゃあ帰るぞ。」

「うん。」

話も終わり私たちは公園を出て、家路を歩く。