ふらふらと後ろに後退する片桐。
「守ってやれよ」
椋太郎の肩に手を置いて、部屋を出ていった。
気まずい。
その四文字がこの場に一番あっていた。
しばらくすると椋太郎はこっちに来てスーツの袖であたしの涙を拭く。
スーツの材質がこすれて少しだけ痛い。
ぽんぽん、と頭に手を乗せる。
あたしと目が合うと笑った。
「大丈夫?」
「…うん」
その返事にあたしを抱き締めて
「泣いていいよ」
大丈夫、その言葉に甘えた。
必死に堪えていた涙がどんどん溢れてくる。
「あたし、ほんとバカだ…っ…」
「唯花は優しいし良い子だから。安心して」
背中を一定のリズムで優しく叩く。
「でも………お母さんを傷つけてた」
背中の手が止まる。
「…『唯花はこんなあたしでもちゃんとどんなときでも面倒を見てくれて、笑ってくれる。
それだけで幸せだなって思うよ』」
顔をあげて、椋太郎と視線を合わせる。
「勉強もできないなりに頑張って失敗することもあるけど、立派だって。誇りだって」
あたしは、その言葉を聞くだけで充分だった。
「いまだって資格取るために頑張ってじゃんか」
今の顔、椋太郎に見られたくなかったなあ。
表情は涙でぐしゃぐしゃになってる。

