あたしの頬から、涙が一筋流れた。
片桐優雅は、少しだけ顔を近づける。
「…俺はお前のことは大して知らない。お前の母さんのことしかバカみたいに知らないからこんな言い方になるけど」
握ってる手の力を強くした。
「ちょっとは自分の母親として見てやってあげろ」
そう言い終えた瞬間、
扉が開いた。
そこでこっちを見た椋太郎はネクタイを緩めていた手をぴたっと止める。
「何してんの、優雅」
片桐優雅はあたしから離れる。
椋太郎はあたしの顔を見た瞬間にカッターシャツの襟を掴んだ。
「何したって聞いてるんだよ」
「…ちょっと」
片桐優雅は目線をそらす。
「お前が女を本当の意味で泣かせないのは知ってる。けどさ、唯花が泣くって言うのは俺にとって話が違うんだよ」
「そんなことわかってる」
片桐優雅は静かに言う。
「俺だって自分の客が大切なんだよ」
「何言った?」
「教えねえ。お前には関係ない」
頑なに口を開かない片桐優雅。
椋太郎は、手を離した。

