ま、いいや。
「椋太郎から?」
「はい、怒ってるというよりも困ってたみたいです」
そう言うと、女の人は驚いている。
「椋太郎が?困ってる?」
「?何か…?」
「あいつ、そんな感情の起伏激しくないよ…?」
こっちを見て不思議そうにしていた。
確かに、出会った時はそういう印象だった。
大体のことには冷静沈着に対処してた。
でも、今は違う。
「あいつだって照れるし、調子狂うし、笑いますよ」
「椋太郎、女の子に『あいつ』なんて言われたら絶対に口聞かない」
………。
それって、椋のことなんじゃ…
椋ってそんな卑劣なわけ?
椋太郎と中身はたいして変わらないでしょ。
おんなじ人間なんだし。
「……今はなんでもいいや。他の男のことなんて」
吐き捨てるようにそう言った。
マンションの鍵を差し込む。
ドアが空いて、エレベーターに乗り込む。
「でも片桐今日忙しいって言ってなかったっけ」
部屋のドアを開けた。
「中にどうぞ」
「お邪魔します…」
あたしは廊下を進んだ。
扉を開ける。
ふと、目があった………片桐優雅と。

