とにかく電車に乗ろう。
…どうしよう。
逃げたい。
椋太郎の携帯持ってて、『旦那』なんて呼んでて。
まだ学校決まってないのに。
あたしの人生終わったな…
電車を出て、改札を通った。
あたりを見渡した。
それっぽい人はいない。
…………のは気のせいだった。
赤い綺麗なドレスを着た、髪の毛を盛ったすごい形相の人。
絶対あの人じゃん。
「あ、あの…」
恐る恐る近づくと「はぁ?」
という声。……さっきの電話の声と同じだった。
「高校生?」
向こうは呆気に取られてる。
「………なに考えてるの、あの人」
女の人は呟いて、続けた。
「よくも人の男寝取ったわね!」
その声に周りの何人かが反応した。
「あたしの…あたしの…」
…………昔のあたしの心のなかを見ているようだった。
心の中ではいっつもこんな風に怒ってた。
浮気っていうのは辛い。
想像以上に。されてみないとわからない、あの苦痛。
大好きだと思ってた人に、あたしへの信頼なんてなくて
挙げ句前の彼氏には『お前なんか』と吐き捨てられた。
『面食いだろどうせ。俺もそうだよ。共学通ってればわざわざ学校の外に出なくても好きな女はできるんだよ』
それでも好きとは言えなかった。
当たり前だけど。
大体ばれると男は必死になる。
そして別れる。
その浮気相手が、今はあたしになってる。
悲しかった。
今までのことが全部嘘だった。
心の中には虚無しかなかった。

