この野郎。
キス魔かっつーの。
とか思いながらもニヤけてしまう。
小さめな傘をさす。
きっと椋太郎に気を使ったところで結局負けてしまう。
だったらその優しさは貰っておいてさっさと家に行こう。
「椋太郎」
「ん?」
「ありがと」
目線を上げていうと、「おう」と言った。
駅に着くとおんなじような人がぽつぽつといる。
「思いの外濡れなかったな」
そう言って前髪をかきあげた。
「結構濡れてますけど」
色が濃くなったシャツを見て言った。
「そうかな?」
「うん、こっちから見るとびしょびしょ」
不幸中の幸いというか、なんというか。
すぐに電車は来てくれた。

