「先週、カナダに行きましたのよ」
「羨ましいですわね。私はパリの方へー…」

あー…うぜぇ…

朝から教室の自席でそんなことをボソッと呟いているのは、
私、宮崎葵(みやざきあおい)。

言っておくと、私の家は別にお金持ちではない。普通の二階建ての一軒家に住んでいる、普通の家庭。

小さい頃から男勝りで女の面影なんてかけらもない私を、両親はこの学園にいれて少しでも改善したいと思ったみたい。

そんな両親の期待に、入学当初の私は頑張ったよ。
頑張った…

でも…でもさぁ、

「今度私の家の別荘にご招待してもいいかしら?」
「えぇ。ぜひ、行ってみたいわ」

無駄にめちゃくちゃ広い教室で、私の隣の席に座ってる女の子二人がうふふと話をしている。

“いいかしら”!?
“行ってみたいわ”!?

“いいかな?”
とか、
“行きたい”
とかじゃダメなのっ!?

しかも、“別荘”って何なの!?
あなたはどこぞのお偉いさんですかっ!?(いや、実際偉いんだろうけどさ、…親が。)

家なんて一個で良くない?
なんて思うのは私だけ…?
そんなことを思いながら、私はダイヤで縁を固められた高そうな時計に視線を移す。

現在、“7:59”。

くる…

来てしまう。

私の最も嫌いな人たちが。
3…

2…

1…

「きゃーーー!!」

一斉に廊下に響き渡る女の子たちの黄色い声。

来た…。

その声を向けられてる人たちを、私はわざわざ確認しにいかなくても分かった。
それは、教室にいた女の子たちも同じようで、
その証拠に、女の子たちは一斉に教室から飛び出し、廊下へ向かった。

教室にはぽつんと、一人残される私…と女の子たちの後ろ姿を顔を歪めて見つめている男子数名だけになった。

この学校は、基本的に女の子の方が圧倒的に多いんだよね。
だから、私の教室にも男の子は5、6人しかいない。
「“王子”のどこがいいんだか」

残された男の子たちは口を揃えてそう言った。