ガラッと勢いよく扉を開けた…

まではいいんだけど、

し、視線がいたいよぅ…。
私はみんなの視線をびしびし感じながら、進む。

いや、正確には、進もうとした。

どうしよう…。

さっき、天王寺海斗とのキスシーンを見られたんだよね…。

「葵っ!」

へ?

後ろから理人に呼ばれ、あわてて顔をあげる。

「きゃっ!」

気づいたときには遅く、前から近づいて来ていた人に腕をつかまれ、また音楽室の外へ強引に連れ出される。


ちょっ…

「ちょっと!何なの!?」

薄暗い廊下で、私はつかまれている腕を振り払って目の前の人物をにらむ。

ー…天王寺海斗。

「キスの次はなにっ!?ていうか何でキスなんてしたのよ!」

聞きたいことは山ほどあるけど、みんなの前であんなのひどいっ!

いや、二人きりならいいとかじゃないけど!

「もしかして…初めてだった?」

!?

「はっ、はぁ?別にぃ?初めてじゃないし!…キスぐらいっ」

嘘です。

キスなんて飼い犬のケンタとしかしたことないです。
「ふーん?」

そう言って私の目をまっすぐ見つめてくる天王寺海斗。

こいつに見られてるとなんか、全部見透かされてるような気になってくるな。

なんていうか、嘘もお見通しみたいな余裕な表情もムカつく。

「とにかく!キスは好きな人とするものでしょっ!?」
「はっはは。あんた馬鹿だとは思ってたけど、本物の馬鹿なんだ?」

天王寺海斗は少し考え込んだあと、ニコッと微笑んだ。

ー…違う。

微笑んだように見せてるだけ。

音楽室で感じた最初の違和感。

表情は変わったとしても、“感情”が入ってないように思える。

ただ相手に合わせているだけ。

“冷たい”ってそういうことだったんだ。

「ゲームをしようよ」

「ゲーム?」

「そう。ゲーム。次の席替えまでの間、あんたは俺らの言うことを“何でも”きくの。“何でも”ね。もし一つでも出来なかったら…」

「出来なかったら…?」

「あんたは退学。」

何の“感情”もない笑顔に、一瞬背筋がぞっとした。
そうだ。

“付き人”をクビになったり、辞めたりしたら退学ってルールがあった。

でも…退学…。

決して裕福ではない家でも、お母さんとお父さんは一生懸命私をこの学園に入れてくれた。

だったら今、私にできることは…何が何でも退学にならないようにする事だ。

「俺が負けたら…何でも一つ言うことを聞いてあげる」

「よっしゃ!やる!やってやるよ!じゃあ私が勝ったら裸で校庭10周ね!」

そう言い残し、私は急いで音楽室へ戻った。

そして、そのあと天王寺海斗が「暇潰しゲームスタート」って呟いたのを私は知るよしもなかった。