放課後。

いつものように使われていない空き教室の第四音楽室に集まった。

俺はピアノの台の上に乗りながら教室内を見渡した。
さっきの教室のことで、俊に葵がからかわれていた。
すねているのかぷく~とふくれる葵の頬。

「くすっ」

思わず漏れた笑み。

しまった。

気づいたときにはもう遅く、隣にいた凪が不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。

「理人が笑うなんて、珍しいな」

確かに。

俺は笑うことはあんまりない。

昔は凪ぎとかに“能面”って呼ばれてたっけ。

「別に」

俺は素っ気なくそう答えてふいっと視線をそらす。

別に…

なんてことないのにな。

それでにやけてたら俺、変な人じゃね?

ガラッ

突然開いた扉。

入ってきたのは、天王寺海斗。

陸となにか話している。

「あいつ…」

え?ー…

ボソッと凪からそんな言葉が聞こえてきて見てみるといつの間にか葵の隣に凪がいた。

葵の耳元でなにかをつぶやいている。

きっと“警告”だろうー…
「同じクラスの宮崎葵です」

葵は海斗にペコッと頭を下げるとへらっと笑う。

そんな葵に海斗は「朝の奴か」と呟いて、葵の両手を壁に押し付けた。

「んっ…んんっ」

時々漏れる葵の声。

みんなただそれを呆然と眺めているだけ。

しばらくして、へたっとその場で座り込む葵。

目が潤んでいる気がする。
「教えてやるよ。“付き人”の仕事。」

同時だった。

海斗がそう言って口を開くのと、葵が音楽室から出ていくのが。



何でだろう?

何で俺は走ってんだろう?
熱くなるなんて俺らしくない。

でも、気づいたら葵の後を追って走ってた。


あぁ、きっとあれだ。

ランニング。

うん。最近走ってなかったから。

走りたくなったんだ。

衝動的に。

「葵っ」