「はあ~…っ、笑った。
よかったよ、哲さん。
これで心置きなく私はこの街を出れる」

「………え?」


目を真ん丸にして、佐緒里ちゃんを見た。
だけど、佐緒里ちゃんは薄ら笑みを浮かべるだけで何も言わない。


街を…出る?


「一人で…?」

「ああ、そう」

「戻って来る気は?」

「ないね。今のとこ」

「どうして?」

「まあ、色々と」


佐緒里ちゃんは俺の度重なる質問にも、表情一つ変えず答える。


“あれから、一度だけ信司がぼやいたんだよね。
佐緒里のこと忘れられないって”

“……佐緒里、荒れてんだよね”



「………信司はどうすんの?」


その質問に、佐緒里ちゃんの肩がぴくっと動いた。
そして、顔から笑みが消えた。


「関係ない」

「今でも信司は…」
「うるさいっ!」


今でも信司は佐緒里ちゃんが好きなんだ。
そう、言おうとした俺の言葉は佐緒里ちゃんによって掻き消される。