「お疲れ、哲」


メットを受け取りながら、朱美ちゃんはそう言った。


「ん」

俺も返しながら、朱美ちゃんが乗るのを待つ。
足を引っ掛けながら、朱美ちゃんが後ろに乗るのを確認すると、俺は「行くよ」とだけ告げて発進させた。


相変わらず、朱美ちゃんは俺に抱き着いてきたりしない。
可愛らしく、しがみつくなんて事はない。

でも、それが堪らなく朱美ちゃんらしくて可愛いと思えてしまう。


すぐに家に到着すると、朱美ちゃんを部屋に通した。

昨日今日で、部屋に通すとか、少し緊張する。
歳を重ねてからの恋愛が、こんなに緊張するだなんて俺は初めて知った。


「おっじゃましまーす」


だけど、朱美ちゃんはそんな事微塵も感じてないのか、飄々とした態度で奥へと進んで行く。
それに少し苦笑する。

鍵を閉めてから、俺も中へと入る。
もうリビングに座ってる朱美ちゃんは、へぇ~と言いながら俺の部屋を見渡していた。