「んじゃ、俺は言いたい事全部言ったし…これで。
後は二人仲良く」


拓は笑顔を見せると、立ち去ろうと背を向けようとした。
だけど、くるっと前にその体を戻すと

「…本当に、おめでと、哲ちゃん」

そうやって、控えめ笑いながら拓は言った。


「拓」

「拓斗」


俺と朱美ちゃんは同じ事を思ったのか、呟く様にぽつりと拓の名前をこぼす。


「……それじゃあな」


拓は手を上げると、今度は俺達の方を振り向かなかった。


一気に静まり返る。
月明りだけが、俺達を照らしていた。

朱美ちゃんがその沈黙を先に破る。


「…哲さん」

「ん?」

「哲、って呼んでもいい?」

「え」


吃驚して、目を見開いた俺だったけど…。
その後に、少し照れ臭そうにする朱美ちゃんが可愛くって。


「当たり前じゃん」


満面の笑みを向けていた。


「哲」

「なーに」

「…何でもない」

「もう一回呼んで」

「嫌だ」

「お願いっ」

「………哲」

「へへへー」


俺は朱美ちゃんの手を取ると、自分へと引き寄せる。
ふわっと朱美ちゃんの髪の毛がなびく。