「謙遜すんなって。いいよ。わかってる。
……だから、ありがとう」


朱美ちゃんは言い終えた後、両方の口角を上げた。
それから、俺の言葉を待つ事無く自宅へと入って行った。



「…………ふ、ふふ、はは」

俺は自然と、笑いが止まらなくなった。


なんて。
なんて素直じゃないんだろうか。


きっと、最初からこれを言いたかったから俺を誘ったんだ。


さっきも、言おうとしたのに言えなかったんだろう。
お礼なんてよかったのに。

だって、俺も信司と佐緒里ちゃんの二人が元に戻ったのは嬉しかったのだから。

あれは、俺の為だったのに。
余計なお世話だったのかもしれないのに。


だから、お礼なんて言われる事でもない。


だけど。
どうしてだろう。


心が温かくて仕方がない。



再度、朱美ちゃんの自宅を見上げると笑顔を向けた。
誰が見てるとかでなく。
自然とそんな顔になっていた。


本当に。
今日、朱美ちゃんと会ってよかった。


俺は心の底からそう思った。