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智「奏!!おいコラ待てっての!」


グイッ


奏「Σおわっ!?ιι」


智也が前を走る奏の腕を捉え、ようやく止まる。


智「ハッ…ハッ…ハッ…お前なぁ、何で足だけ速いんだよ。ι」


奏「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…でも…智くんは、私より、余裕ある…ハァ…」


肩で息をする奏と違い、智也はまだまだ十分余裕がありそうだ。


智「ったりめぇだろ。女に体力的に負けるわけ無い。」


フゥと息を整え智也は改めて奏の手を握る。


智「奏、行く場所はあのマンションか?」


奏「そうだよ。だって帰ってきたなら家は二年前まで使っていたあのマンションしかないじゃない!」


智「あのさ、二年前にあそこをお前らが出てったんなら今は違う人が使ってんじゃないのか?」


智也は諭すように言うが奏は首を振った。


奏「あのマンションは伸ちゃんの持ち物だもん!管理人は違う人がやっているけど、伸ちゃんが雇った人で出ていくとき、あの部屋は誰にも使わせないって言ってたもん!」


智「……だけど、会ってどうする?またあの時みたいに傷付けられるだけかもしれないんだぞ。」


奏「関係無い!例えまた拒絶されても私の家族は伸ちゃんだけ。伸ちゃんだけなんだよ智くん。」


切なげなその言葉に智也はもう何も言えなかった。


智「……一人で行くのか?」


奏「うん。」


智「怖くないのか?」


すると奏は僅かに震え、自分を抱き締める。


奏「…怖いよ。ホントは伸ちゃんに会うのは怖い。だけど、逃げたくないの。だから、臣くんは私に教えてくれたんだと思う。臣くんも私の気持ちを分かってくれてるから、私はそれに応えなきゃ。」


強い眼差しに智也はため息を溢し、奏の手を放した。


智「なら俺はお前を見守ってやるよ。行ってこい。待っててやるから。」


クイッと顎で指す場所には二年前まで奏と伸が住んでいたマンション。


奏「うん。心配してくれて有難う智くん。」


パッと踵を返し再び走り出した奏を今度は追い掛けず見送る智也。


その瞳には何が写っているのか。


智「奏、俺達はお前の泣き顔なんてもう見たくねぇんだ。頼むから、もう奏を苦しめないでくれよ。」