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孝「……そこで俺達が来たわけか。」


伸「まぁな。で?お前が言いたいことはそれだけなのか?」


孝「ん、ふわぁぁ…まぁ、ん、そうかな?あ、いや待った、伸さんは奏の事はほっとくの?」


欠伸しながらも痛いところをつくコイツに嫌気がさす。


伸「ほっとくも何も俺には既にそんな資格は絢之の言う通りないだろ?」


自嘲気味に笑えば珍しく孝臣は眉を寄せていた。


孝「アンタ、本気で言ってんの?」


グッと顔を近付け下から睨み付ける孝臣に若干、身体を引いた。


伸「な、何だよ。ι」


孝「二年前、アンタがあの子を捨てて、ボロボロに傷付いてたあの子を俺達は見ていた。だから、アンタを俺達は許さない。そう誓っていた。
でもね、奏はアンタを少しも恨んでいないし怒ってもいない。ただアンタが何故自分を遠ざけたのか理由が分からなくて、分からない自分に腹が立って…悲しんでるんだよ。」


伸「……………」


孝「俺は、俺達は奏が好きだ。大切な幼馴染みだ。あの子が幸せに笑えるならそれでいい。だから、アンタはあの子から逃げないでよ。どんなに苦しくっても心無い事言って、遠ざけてしまわないで。”あの時“、あの子を引き取り家族になると決めたのはアンタなんだから。」


伸「……痛いところをつくのが、昔からお前は上手いよな。けど、事はそんなに単純じゃあ無い。まだ、俺は奏には逢う勇気も無いんだよ。情けないけど、さ。」


何だか疲れた気がする。そんな想いで息を吐き出すとポツリと呟くように孝臣は口を開いた。


孝「伸さん、アンタが何を恐れて何から逃げてんのか知らないけどね、俺は奏に今日アンタに逢ったことを言うつもりだよ。」


伸「Σなっ!?ι」


ちょっ、何このガキ!?俺の事嫌いだからって奏に俺の事言うのかよ!?ι


孝「……別に、伸さんが嫌いだからって訳じゃ無いんだからね?」


俺の表情で何を思っていたのか分かったようでそうフォローを入れる孝臣。


伸「じゃあ何で…」


ん~と顎に指を添えて孝臣は口を開いた。


孝「だって、どっちも前に進めないじゃない?ちょっと刺激は強いかもだけど、これはアンタにとっても奏にとっても前に進む切っ掛けになる。だけどアンタの事を聞いてあの子がどうするかは彼女自身が決めることだから。」


言いたいことだけ言うと孝臣はクルリと踵を返し、じゃあと手を挙げ帰っていった。


伸「………何を恐れて何から逃げている、か。本当にアイツらは厄介な連中だよ。」


俺はアイツらみたいに自分に素直にいていいほど子供じゃあ無くて、けど、この感情を割り切れるほど大人でもない。


伸「ホント、面倒くさい。」


せめて、俺がアイツらと同じ立場だったなら…こんなに悩む事も無かったのだろうか。