伸side


偶然だった。アイツを見付けたのは。


二年前、仕事を辞め、昔からやりたかったカメラの修業にこの町を出て海外でプロのカメラマンとなった俺は、仕事でここに帰ってきたのだが、駅を出てすぐに奏を見付けた。


その瞬間、ドクリと心臓が騒ぎ慌てて近くのベンチに腰を下ろした。勿論、ベンチの所には大きめな木があり奏の死角になる場所だ。


そっと後ろを振り返り、彼女を盗み見る。


当然奏は俺に気付かずファインダーを覗いていた。


それに安堵し、同時に悲しくもあった。そんな事を思う資格はないというのに。


それから数分間、見守っていると奏は空を写し誰かが彼女に近付く。


一瞬、ナンパかと思ったが、その姿に舌打ちをした。


伸「もしかして…孝臣か。」


いや、間違いなく孝臣だ。整った顔立ちの癖にあの常に眠そうな顔に菓子を常備。アイツ以外いないだろう。


伸「………チッ。行くか。」


元々、奏の前に姿を現すつもりなんて無かったが、孝臣の存在で余計に逢う気が無くなった。


その時


絢「なっ!?アンタ、伸さん!?」


驚愕を含んだ声に振り返り、再び舌打ちをした。


短い髪を軽くワックスで整え、センスのいい服を着た中性的な顔をした少年。身長が高めなので女に見えないが顔だけ見れば一瞬、女と勘違いする容姿。コイツは…


伸「絢之、か。久しいな。」


絢「ざっけんな!!テメェどの面下げて帰ってきやがったゴラァ!!」