それからしばらくお互いに話さず人が大勢いるなか沢山の音が溢れているのに俺は彼女のシャッター音だけを器用に聞き分けていた。
それから約15分位だろうか。彼女の動きが止まり、再び空を写す。
カシャッ カシャッ カシャッ
孝「終わり?」
それに答えるようにカメラからフィルムを、取り出した。
奏「うん、今日はお仕舞い。有難う臣くん、付き合ってくれて。」
ニコッと笑い奏はお礼を言う。
孝「いいよ。それより今日はここだけ撮ってたね。他は良かったの?」
奏「うん。ここでいいの。」
愛しそうにカメラを撫でると鞄にそっと戻し奏は立ち上がる。
孝「………写真、本当に好きなんだね。伸さんの影響?」
俺が聞くと若干、瞳が揺れた気がした。
奏「……確かに、伸ちゃんの影響は、大きいけど私が本当に好きなのは、音、なんだよね。」
孝「音?」
コクリと頷き両手の人差し指と親指を合わせ四角をつくり、そこを覗く。
奏「シャッター音はまるでその瞬間を切り取るみたいでしょ?
私は多分、それが好き。私がシャッターを切るとその瞬間、そこの音、そこの色を一瞬止めて写し出し、私がそこに居たんだって証明になるから。
私ね、未だにファイルのタイプ使っているでしょ?デジカメタイプも使っているけど、さっき言ったようにやっぱり写真には良いも悪いもないと思う。全部が失敗で、全部が成功。それを写し出す音が好きなの。」
奏の顔はどこか感情の無い、まるで人形のようだった。
「ざっけんな!!テメェどの面下げて帰ってきやがったゴラァ!!」
奏・孝「Σ!?」
その時、駅周辺で怒声が聞こえた。
……というか、聞き覚えのある声だったような……
奏「お、臣くん、今の聞き覚えのある声だった気が…ι」
ああ、彼女も聞き覚えのある声だったというならば間違いないのだろう。
孝「……何してるんだろうね。絢之(アヤノ)は。」
奏「やっぱり絢ちゃんだよね?い、行ってみる?ιι」
不安そうに俺に聞いてくる奏。本当ならさっさと駆け出しているだろうけど、俺も居るからまだ踏み止まっている。
孝「……ふわぁぁ…一応、行く?このあと結局は絢之も智也の所に行くんだし。」
それに頷き、奏は声が聞こえる方へ向かっていった。俺はそれをのんびりと後ろから付いていく。


