孝臣side
空にカメラを構えた奏を見詰める。
相変わらず、表情が変わるな。
真剣そのものでファインダーを覗く奏は、普段のポヤンとした雰囲気が消え、とても綺麗だった。
孝「……何か、おまじない?」
奏「へ?」
俺が話し掛けると、意外そうに振り向く彼女。
奏「おまじないって?」
孝「奏、いつも本格的に撮る前、空を写す、から。おまじないかな?って、思ったんだ、けど…」
違ったのかな?
奏「………伸ちゃんが、よく、そうだったから。」
“伸ちゃん”
その名前にポテチの袋を握り締めてしまう。
奏「伸ちゃんが昔、ね?教えてくれたの。私が臣くんと同じ質問をしたときに。」
だが、彼女は俺の様子に気付かず話を続ける。
当然か。俺が気付かれないように表情は変わらないようにしているんだから。
奏「“写真を撮る前に願掛けしているようなもんだ。良い写真が撮れるようにって。終わりも三枚は空を写す用に残しておいて最後に撮る。まぁ要するに無事に撮り終わった証明みたいなもんだ。”って、教えてくれたの。……私が伸ちゃんみたいに写真を撮り始めた頃にそれを思い出して、私の場合は写真には良い悪いがないと思っているからただの真似なんだけどいつしか私にとっては癖みたいになっちゃって。」
照れたように笑う奏にそっか、と返す。


