『奏(カナデ)、分かってんだろ?』


『いや、嫌だよ伸(シン)ちゃん!!』


あぁ、今私は夢を見ている。


そう頭の隅で冷静に考えている自分がいる。


『お前にはお前の人生があるように!……俺にも俺の人生があるんだよ。』


『だけど私はまだ伸ちゃんと離れたくないよ!何で、何で私を遠ざけるの!?私は、伸ちゃんの家族じゃ…無いから?』


悲痛な声色に耳を塞ぎたくなる。見たくない…いや、お願い…思い出したくない!!


『……ハッキリ言う。迷惑なんだ。お前が居たら俺は俺の夢を追えない。頼む、お前が成人するまで援助はするから、寮に入ってくれ。』


『迷惑……私は、伸ちゃんにとって、邪魔、なの?』


『んなこと、言ってないだろ!?俺はお前が……!
…寮の手続きは済ましている。明日からそこに行け。荷物は明日以降、届けるから。』


伸ちゃん!!


叫んでも彼は振り向かない。手を伸ばしても捕まえることが出来ない。


私は真っ暗な場所で彼が私を遠ざける理由がわからなくって…あの時、彼は何を言いたかったのかもわからなかったから、小さく身体を丸め泣くしかなかった。


「…か…で…なで…」


? 何だか身体が小さくだが揺れている。


あぁ、だけど覚醒するには何だか弱く、悲しくて寂しくて、思い出したくないのに夢でも良いからもう一度あの時の彼の顔を見たいと思う私は、また深い眠りに落ちそうになる。


「日暮!!」


ガツン!


奏「Σふぎゃ!?ι」


怒声と共に頭を襲う激痛に猫が潰れるような声が出てしまった。


奏「…いっっったぁぁぁ(泣)ιι
………あ。」


教科書を構えた状態で真っ黒な笑顔を浮かべる数学の先生。


それにより今が授業中で、先程自分の頭を直撃したのは先生が構えているその教科書で身体を揺すっていたのは後ろの席の親友だとわかった。


その証拠に親友は頭を軽く抱えていた。


「よ~ゆ~だ~な?日暮?前に出てあの問題を解け。」


指を指され前を見ると解読不能の数式が並んでいた。


奏「……ゴメンナサイ、ワカリマセンιそして先生、角で殴ると涙が出るほど痛いです。」


素直に頭を下げると先生は軽くため息を吐いて素直で宜しいと教壇に戻る。


「二度寝しないほど痛かったろ?それにしても日暮は普段は真面目なのにうたた寝なんて珍しいな。けど弛んでる証拠だぞ?とはいえ、お前らも二年生だと油断していたらあっという間に受験生だからな。
じゃあこの問題の説明を続けるが……」


先生は問題の説明を始めたのだが、私は先程見ていた夢を思い出していた為、集中出来なかった。


奏(さっきの夢、最近は見ていなかったのに… 伸ちゃん…貴方はあの時、何を思っていたの…?)