シュシュ

「・・・薫子」

「なんですか?」

「そんなに小さな人間はいないぞ」


「…私、人間なんて言ってませんよ」

「?!」



「・・・あの、ゴキブリなんですけど」

ゴ、ゴキブリ・・・

俺は全身の緊張が解け、その場に座り込む。


「・・・薫子、ゴキブリ苦手なのか?」

「…はい、世界で一番嫌いなものです」

プッ・・・・・

笑わずにいられなかった。

まさか、誰がゴキブリだと思う?

悲鳴が聞こえ、通話が切れ、何度鳴らしても、電話に出ないんだ。

誰でも、悪い想像をするだろう?


「わ、私、変なこと言いました?」

薫子はオロオロとしながら尋ねてくる。


「…いや、変な事は何も言っていない」

「じゃあ、なんでそんなに笑ってるんですか?」


「薫子は何も悪くない。可笑しいのは自分だ。

勘違いも甚だしい・・・」

でも、ゴキブリなんかで良かった。

「薫子ちょっと」

手招きして薫子を近寄らせ、

俺は薫子の腕を引っ張り、ギュッと抱きしめた。


「何でもなくてよかったよ」