「もーう。コータ先輩遅いですよー」

内藤が頬を膨らませて言った。そんな仕草しても、全然可愛くないぞ。


「ごめんっ!ってか、内藤…残っててくれたの?」

「そうですよー。美沙は遅くなると危ないから、先に帰しました」


「美沙ちゃんは帰ったのか…そっか」

それも仕方がない。俺が30分も遅れたからだ。


「あたしじゃ不満なんですかー?」

なんでわかるんだ?顔に出てたのか?と、内藤に言いたいところだが、

「そんなことないよー。全然」
と、返しておく。

「磯貝さんは今日も30分前に来てたんですよー。今までと逆ですね」
と、内藤が言った。

磯貝は…今日も早かったのか。


「俺一人で大丈夫だって言ったのに、残るって聞かなくてさ…」

そう言った磯貝と内藤の距離は、なんだか近い気がした。


「内藤!サンキュ!もう上がっていいぜ!一応女の子だしな。帰り道気をつけろよ」

俺がそう言うと、

「一応って何ですか!もう。せっかく残ってあげたのに…」

内藤はぶつぶつ言いながら退勤した。


ここからは、男二人だけの時間だった。
昨日のベルト盗難事件、そして夢の中で起こった、俺襲撃事件が目に浮かんでくる。
磯貝が、前までとは違う人間になってしまったような気がしてならなかった。

そう、彼は突然豹変する。

昨日、俺のベルトを奪ったときも、いつもとは目が違ったんだ。

俺がレジを打ち、彼がサポートで商品を袋に詰めるときも、彼が腕が俺に少し触れそうになるだけで、どこかで恐怖を感じた。


客が一人もいなくなると、不安になる。


「…どうした?なんか不自然じゃね?」

磯貝にそう言われた。俺からしたって、お前が不自然なんだよ…。

「別に…。普通だろ」

でも、明らかに俺の顔は引きつっていた。


磯貝が、俺の腰をジロジロと見てくるからだ。


「な、なんだよ」

「……」

磯貝の手が、俺の腰に触れた。


「お、お前。何してんの?」

こ、これは…あの夢の再来か…?また襲われるのか…?


「ちょっと、ゴミが付いてた」


「お、おう」