―ガチャ


湿っぽい顔をして家に帰ってきた俺に、トラ子が近付いてきた。
トラ子は俺の膝にスリスリと頭をこすり付けている。

こう見ると…少し大きなただの猫なんだけどな…。


「お帰りー!」


桃子さんがダイニングキッチンから玄関に出てきてくれた。


「た、ただいま」


レッドを連れ戻せなかったのもあって、目を合わせられなかった。


「…クロザイル…だよね?」

何を言ってるんだ桃子さんは…。
下を向いていた顔を上げる。


「そうだよ…。なんで?」

桃子さんは俺の顔を両手で掴んでこう言った。


「黒くなってるよ。…肌。まるで別人みたい」


「えぇっ?」

自分の手の色を見てみると、袖から下の露出していた手の甲は、小麦色に焼けていた。


「こ、これは…もしかして……?」


「レッドにやられたみたいね」

桃子さんは冷静にそう言った。


「で、レッドは?一人で帰ってきたから、大体わかるけど」


「…うん。俺に紫外線を浴びせた後、光を纏って何処かへ…」


「そっか。彼も強情だからね。あ、ピザ届いてるから、食べなよ。冷めちゃうよ」


「…うん」


「手は洗いなよ」


「…うん」


ダイニングに戻ろうとする桃子さんが、振り向いて俺にもう一言言った。


「黒いの似合ってるじゃん」



「はは、ありがと」


手を洗いながら、俺は洗面台に写った自分の顔を見た。

似合ってる……か。黒いのも、アリだな。