店内に戻ると、磯貝がレジで強盗にひたすら謝っていた。

「―本当にこれしかないんですぅー。勘弁して下さい」

「ふざけるな!もっとあるだろう!?この女の命が1万ちょっとだって言うのか!?」

「小銭も全部あげますから…」


「もう…。アタシのお金もあげるから。…離してよ」

キャバ嬢が、持っていたモノグラムの財布から、札を出した。

10万円ぐらいだろうか。

「…ふん。しけたコンビニより持ってるな」

男は女から札を奪うと、女の持っていた財布も奪った。

「ちょっと…財布は!」

「うるせえ!」

男は女を突き飛ばした。


「―キャッ!」


男はレジの金も磯貝から奪うと、そのまま逃げようとした。



俺は、念じた。
頼む!
“包丁、包丁を…”。


「財布は返してよー!」

女は倒れたままでそう叫んでいた。

逃げようとしていた男の動きが止まる。

包丁を持っていた手が、進行方向とは逆に、俺のほうに突然引っ張られたのだ。

―グキッ

「なっ!ぐあっ!」

包丁は男の手から離れ、レジに向かって飛び、俺の腰のガウベルトにくっついた。


俺は包丁を取って構え、奴に近づく。

「…返せよ!この子が汗水たらして稼いだ金を、てめぇが一瞬で奪うんじゃねぇ!」


「くっ!」

さらに逃げようとする男に、俺は念じた。

奴の…“ヘルメット”!


―ガバッ

奴のヘルメットが脱げ、俺の腰に飛んできた。

奴の顔は、30~40代のおっさんだった。

「な、なんだ?」

磯貝とキャバ嬢は、目の前で起こっていることに、戸惑っている。

男はさらに混乱していたが、がむしゃらに出口へ逃げようとする。

「ひいぃぃぃ!」