ん…。

ちょっと待てよ。

俺、昨日ビデオ返したか…?


昨日の記憶を辿る。

バタバタしてて…彼女に夢中で…結局俺は返してないぞ。

真っ直ぐ家に帰ったんだ!

リュックの中に入れっぱなしだ!


『延滞料金』

俺の頭の中にこの四文字が大きく浮かび上がった。

悔しい料金がもう発生している。

ちょっと早めに出たから、今から家に戻っても待ち合わせに間に合うんじゃ…?

いや、今日帰ってから返しに行けばいいか。


―待てよ。

彼女が「泊まっていけば?」
なんて言うかもしれない。

そうしたら俺は帰れない。バイトも休むしかない。
今から休む理由も考えておくか。腹痛でいいや。


いや、むしろ……

「泊まっていかなきゃ…

…殺されるわよ」

なんて言われるかもしれない。昨日のトーンで。


怖いけど嬉しい展開だ。

そんなことで頭が一杯の俺は、大らかになっていた。

「延滞料金の二日分ぐらい…いいよ」

笑顔で自分にそう言い聞かせた。
 
俺はそのまま待ち合わせに向かった。

立ち読みして待っていると、店の前に彼女が現れた。

―桃子さんだ。

俺は急いでコンビニを出る。

「待った?」

「いや、今来たとこ」

本当は待ったけどね。
緊張しながら、立ち読みした雑誌の記事なんて、全く頭に入らなかったさ。


「じゃ、行こっか」


「う、うん。あ、飲み物とかお菓子とか…買ってく?」

彼女の家で映画や、マッタリするとしても、必要だと思って訊いたのだが、

「平気」


彼女は首を横に振った。


「オッケー」

俺はそのまま彼女の後をついていった。