イルリマ帝国伝説章

とにかく学校にいきたくなかった。
元々、自ら志望して入学したわけではない。
第一志望校に落ち、滑り止めで受けていた私立にも落ちて二次試験で入学した県立高校だ。
県下悪の溜まり場として有名な高校である。悪と言うのは言い過ぎか。不良としておこう。

汚名挽回という名の元に教師たちは校則違反者の取り締まりに躍起になり毎回毎回服装チェックに余念がない。本当にこんなのは中学までで勘弁、って思う。
目立たないように細々とエンジョイするに限る。
なのに、この学校はそれすら許してはくれないようで。
「おい、話を聞け」
「ああ?うるせぇよ」
またか。
連中に気づかれないようにシャーペンをおき、ため息をつく。授業が進まないし、それに。
「おぇ」
安っぽい香水の匂いが鼻につく。というか臭い。マジで。
わざと窓を開けたところで理解なんてしてくれない。その脇では相変わらずギャアギャア喚いていて。
マジでやってられないのだ。
かわりに通い出したのは市立図書館。単位を落とさない程度に一日を潰した。入り口で司書員にさえ見つからなければ誰も来ない奥の洋書のコーナーに隠れていられるのだ。
ハリー・ポッターの第一巻を読み終えたオレは静かに本を閉じてため息をつく。魔法の世界の余韻に浸る。自分も使えるかも、などと思えるから不思議だ。
そしたら真っ先にあいつらの姿を変えてやるのにと思うとクラスのやつらの顔と変身後の姿が浮かんできてにやけてしまう。あわてて首を降り、現実に戻した。
本を棚に戻し、続きを読もうと見渡す。
すると一冊の本が目にとまって手にした。その本はかなり厚い。重みもある。
両腕で抱えないと落としそうだ。さっきまで座っていたテーブル席にいき本を置く。
焦げ茶色の革表紙のその本はいままで誰にも手にされることはなかったのだろう。少しだけ埃がかかっていた。軽くそれを払うと金色の文字が見えた。だけれど掠れていて読み取れない。いや、読めない、と普通は思うものなのだが。
(この文字、知っている)
ふとこう思った。
そして不思議だった。何の違和感も感じないでそれを手にしていたのが。
まるでもう決まっていたかのようにさえ思ったのだ。
掠れているその文字を口にした。
「イルリマ帝国伝説章」
すると表紙が手を触れていないのに開き始めた。

そこにかかれていたのはごく短い文章だった。序章、とでも言えるだろうか。
其処にはこう記されていた。
『遥か彼方にすむべきものよ発つがいい。
遥か彼方に棲みしものよ行くがいい。
神王に導かれしものよそれに従うがいい。
汝はこの帝国を救いし光の騎士なり』
「光の騎士」
この言葉を呟いた瞬間眩い光が辺りを包んだ。