誠は、秋子の方を見た。秋子は、キッチンで洗い物をしていた。そのときだった。秋子が、タオルで手を拭きながら廊下に歩き出した。

「お母さん?どこ行くん?」

「ちょっと、トイレ」


……しめた!


秋子がトイレに入った事を確認すると、誠は慌てて食器棚から皿を取り出し、天津飯をその皿に移した。そしてそれを、玄関の外に置いた。そのとき、秋子がトイレから出てきた。誠は慌てて椅子に座り、何事もなかった様な素振りをした。

「…うん?」

秋子が声を出す。

「え?どうしたん、お母さん?」

「今、玄関開いた音、せぇへんかった?」

「いや、せぇへんかったけど…気のせいちゃう?」

「そうかなぁ…」

秋子は首を傾げると再び、洗い物の作業を再開した。

「フー…」

とりあえず、バレてはいないようだ。誠は、安堵の息を漏らした。

「ごちそうさま」

誠はそう言って手を合わせると、席を立った。

「え?もう、食べたん?」

それに気づき、秋子が聞く。

「うん、お腹空いてたから」

誠は空になった皿を秋子に渡すと、玄関へ行って靴をはいた。

「ちょっと、麗菜に教科書返してくるわ」

「はいよ。早よ、帰るんやで」

誠は家を出ると、天津飯を持って麗菜の所へ向かった。その姿に、気づく麗菜。