「坂下さ~ん!待って~!」
エレベーターを待っていると、ヒロくんの会社の受付の人が走ってやって来た。
20代半ばくらいの可愛らしい女性で、名前は知らないけれど、訪問時はいつも愛想良く迎えてくれる人だ。
「どうしたんですか?そんなに急いで」
何か忘れ物をしただろうかと思っていると、意外な言葉が出てきたのだった。
「坂下さんて、諏訪さんとお知り合いなんですか?」
「諏訪さん?」
「そうです。だって、“ヒロくん”て呼ばれていたじゃないですか」
興奮気味のその人からは、明らかに私とヒロくんの関係を知りたがっているのが分かる。
「ああ、実は私の幼なじみのお兄ちゃんなんです。ちなみに、私の初恋の人で」
どうせ子供の頃の話だ。
面白く話したつもりが、思った以上にその人はガッカリしている。
「そうなんですか…。諏訪さんの赴任、みんなで喜んでたんですよ。凄いイケメンじゃないですか」
「はあ…、まあ…」
“イケメン”ではあるけれど、ヒロくんはもう少し落ち着いたイメージだけどな。
と、不意に落ちない気持ちを隠しつつ、苦笑いを浮かべた。
「だけど、私たちはただの幼なじみだし」
その言葉はもはや聞こえていないのか、ガッカリした様に肩を落として、受付の女性は戻って行った。
「ふぅん…。ヒロくんて、モテるんだ」
どこか清々しい気持ちで、エレベーターに乗り込んだのだった。

