途端に緊張が走る。
物音一つない部屋で、私はドアの方に向いたまま、ヒロくんには背を向けた格好になっていた。
「莉緒、久しぶりだな。すっかり、大人の女になってるじゃないか」
穏やかな口調で、背後から話しかけてくるヒロくんに、胸が一瞬ときめいた。
ヒロくんも瞬爾と同じで、低くて色気のある声だ。
その声は、昔とまるで変わっていない。
聞こえるだけで、うっとりしてしまう。
そして、まるで10年以上も会っていないとは思えないくらいの話しぶりに、緊張が少しずつ取れていった。
「ヒロくんも、素敵な人になってる。私のこと、よく分かったね?」
ようやく振り向く事が出来た私は、懐かしいヒロくんの顔から目がそらせない。
「分かるよ。女の子ぽい柔らかな雰囲気は、昔と変わってないから」
「ヒロくん…。ありがとう」
最後に会ったのは、私がまだ中学生の時だった。
だから、ヒロくんが私に恋愛感情を持っていない事くらい分かっていた。
今のセリフだって、懐かしい妹に向けたものだとも分かっている。
分かっているけれど、やっぱり嬉しい。
「ヒロくんが、まさかここの会社に勤めてるなんて知らなかったよ。今は、こっちへ戻ってきてるの?」

